粗利率と値入率の違い:150%儲かっているつもりが、実は60%
まず一問。原価400円のものを1000円で売ります。儲けは何割でしょうか。
多くの方は「150%」と答えます。儲けの600円は原価400円の1.5倍だからです。この計算自体は間違っていませんが、これは粗利率ではなく値入率です。粗利率は60%になります。
どちらの数字も正しいのです。問題は、この2つが同じものとして扱われがちなこと。そして両者の差は、値引きの判断を誤らせるのに十分な大きさです。
2つの計算式、違いは分母だけ
この記事で覚えていただきたいのは、実はこれだけです。
- 粗利率 =(売価 − 原価)÷ 売価
- 値入率 =(売価 − 原価)÷ 原価
分子はまったく同じ(どちらも儲けの600円)です。違うのは分母だけ——売価で割るか、原価で割るか。
先ほどの例に当てはめます。
| 粗利率 | (1000 − 400) ÷ 1000 = 60% |
|---|---|
| 値入率 | (1000 − 400) ÷ 400 = 150% |
同じ取引、同じ600円の儲けが、60%とも150%とも呼ばれるわけです。
覚え方としては——値入率は「仕入値にどれだけ乗せるか」で、仕入伝票の側から見た数字。粗利率は「お客様が払う1円のうち何割が自分のものか」で、レジの側から見た数字です。値入率は常に粗利率より大きく、粗利率が高くなるほど差は急激に開きます。
混同すると何が起きるか:値引き
ここが実際にお金を失う場面です。「この商品には150%の利益が乗っている」と思っていれば、3割引きくらい何ともないように感じます。
実際の数字を見てみます。原価400円、定価1000円、3割引きで700円で販売した場合:
| 1000円のとき | 儲け600円、粗利率60% |
|---|---|
| 700円のとき | 儲け300円、粗利率43% |
価格は3割下げただけなのに、利益は半分になります。
半額の500円ならどうか。儲けは100円、粗利率20%です。価格を半分にすると、利益は6分の1。今まで1個売って得ていた金額を、6個売らないと得られません。
「150%も乗っているのだから、少し引いても平気」——この考え方がお店を潰します。乗っているのは60%であり、値引きはその60%から直接引かれるのであって、150%から引かれるのではありません。
換算表:値入率 → 粗利率
「仕入値の何倍」で値付けをされている場合、それが実際には何割の粗利になるかの一覧です。
| 値付けの方法 | 値入率 | 実際の粗利率 |
|---|---|---|
| 原価 × 1.5 | 50% | 33% |
| 原価 × 2(いわゆる「倍」) | 100% | 50% |
| 原価 × 2.5 | 150% | 60% |
| 原価 × 3(飲食で多い) | 200% | 67% |
| 原価 × 4 | 300% | 75% |
「原価 × 2」の行にご注目ください。「倍にしているから半分は儲け」と言われますが、ちょうどこの点だけは粗利率も本当に50%なのです。両方の言い方が一致する唯一の行であり、この誤解が長く生き延びている理由でもあります。一段上がると、もうずれ始めます。
逆に、目標の粗利率から売価を決める場合は:
売価 = 原価 ÷ (1 − 目標粗利率)
原価400円で粗利率60%を狙うなら、400 ÷ (1 − 0.6) = 400 ÷ 0.4 = 1000円です。
よくある間違いは「粗利60%だから原価 × 1.6」とすること。これでは640円にしかならず、粗利率は37.5%——狙いの6割程度しかありません。
手計算が面倒でしたら、無料の粗利率計算ツールをご用意しています。正逆どちらの計算にも対応し、デリバリーアプリや決済の手数料も含めて計算できます。登録不要で、入力した数字がブラウザの外に出ることもありません。
もう一点:粗利は手元に残る利益ではありません
粗利率を正しく計算できたとしても、それはまだ手元のお金ではありません。
粗利から引かれているのは「売った物の直接原価」——食材、仕入値、材料費だけです。これから引かれるものが、家賃、光熱費、人件費、社会保険料、プラットフォーム手数料、設備の償却、そしてご自身の時間です。
粗利率60%のお店が、年間で見ると純利益率5%というのは、まったく珍しくありません。「粗利率60%」という数字を見て安心しないでください。それは何も引く前の数字です。
デリバリーアプリを使う場合は、さらに注意が必要です。手数料30〜35%は一般的で、しかもそれは粗利からではなく売価から引かれます。原価400円・売価1000円の例では、アプリ経由の手取りは650〜700円。儲けは600円から250〜300円に落ち、粗利率は60%から38〜43%になります。デリバリー価格を店内より高く設定するお店が多いのは、このためです。
結局、どちらを使うべきか
どちらも使います。ただし、用途が違います。
- 値付けのときは値入率——目の前にあるのは仕入伝票ですから、「原価400円、何倍にするか」と考えるのが自然です。
- 儲かっているか、値引きできるかを判断するときは粗利率——粗利率は売上と分母が同じなので、同じく売上比で見る家賃や人件費と直接比較できます。
避けるべきことは1つだけです。値入率の数字で、粗利率の判断をしないこと。150%という数字は余裕があるように感じさせますが、実際に削れるのは60%です。
最後に正直なことを申し上げます。この計算ができるのは、誰かが数字を記録しているからです。多くの経営者の方は計算ができないのではありません。閉店後に売上を締めて数字を確認する気力が、もう残っていないのです。式がどれだけ簡単でも、数字が入ってこなければ意味がありません。
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